ポトマック川に消えたエアフロリダ90便|着氷の悲劇と川底の英雄
ポトマック川に消えたエアフロリダ90便|着氷の悲劇と川底の英雄にまつわる興味深い視点を分かりやすく発信ます。
氷点下の水温、浮氷が漂うポトマック川での救助活動は、人間の尊厳と崇高な勇気が試された現場でした。大破して川に沈んだ機体の残骸から、かろうじて水面に尾翼部分とともに顔を出していた生存者はわずか6名。彼らは低体温症で数分以内に意識を失いかねない極限の危機に瀕していました。
猛吹雪で視界が遮られる中、アメリカ連邦パーク警察の救助ヘリコプター「イーグル1」が決死の操縦で現場に到着します。スキッド(ヘリの脚)が氷水に触れるほどの限界低空飛行で命綱と救命浮環を投下しました。
その時、一人の男性生存者が世界中の涙を誘う行動をとります。重傷を負いながらも、ヘリから降ろされた救助ロープを手にするたび、彼は自ら掴まることを拒み、隣にいる意識朦朧とした別の乗客や客室乗務員にロープを渡し続けたのです。
男性は計5回にわたりロープを他者へ譲り、すべての仲間が引き上げられるのを見届けました。そしてヘリコプターが最後に彼を救い出そうと戻った瞬間、体力を使い果たしたその男性は、静かに氷の張る川底へと姿を消していきました。
当時「水の中の男(The Man in the Water)」と呼ばれたこのエアフロリダ90便の英雄は、後の遺体収容と身元確認により、52歳の銀行員アーランド・ウィリアムズ(Arland D. Williams Jr.)氏であることが判明しました。彼が激突した現場の橋は、その偉大な自己犠牲を称え「アーランド・D・ウィリアムズ・ジュニア記念橋」と正式に改名されています。