桐野夏生の最高傑作はどれ?代表作の魅力と衝撃作の深層を徹底解剖
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1999年に第121回直木賞に輝いた『柔らかな頬』は、桐野文学のもう一つの頂点と評される名作です。サスペンスの枠組みを用いながら、人間の内面深くに潜む孤独と罪悪感を抉り出しています。
主人公のカスミは、夫と2人の娘と平穏に暮らしながらも、心に通う愛人・石山との密会を続けていました。夏の北海道、石山の所有する別荘に滞在していたある日、わずか5歳の次女・有香が忽然と姿を消します。事故なのか、誘拐なのか、手がかりが一切ないまま時が流れます。
物語の焦点は、事件の真相究明だけでなく、娘を失ったカスミの精神の変容へと移っていきます。元刑事の内海の助けを得て娘の行方を追い続けるカスミですが、読者が期待するような明快な謎解きやカタルシスのある「結末」は用意されていません。本作の結末は、失踪の真実が闇に包まれたまま、母としての自責の念、女性としての業、そして生きることの不条理を抱えて歩み続けるカスミの受容が描かれます。
白黒つけられない人間の感情の揺らぎをそのまま描き切ったこのラストシーンこそ、選考委員からも絶賛された桐野文学の真骨頂です。