夏目漱石『こころ』名言の真相|「向上心」に潜むエゴと孤独の深淵
夏目漱石『こころ』名言の真相|「向上心」に潜むエゴと孤独の深淵の特集記事をご紹介します。専門的な知識が詰まっています。
先生が遺書に記した言葉は、人間の底知れぬ業と、他者を信じられない絶望に満ちています。読者の胸を抉る代表的な名セリフを厳選して解説します。
「自由と独立と己れとに充ちた現代に生れた我々は、其犠牲としてみんなこの淋しさを味わわなくてはならないでしょう」
封建的な共同体が崩壊し、個人主義が台頭した明治後半から大正期の空気を的確に捉えた一節です。自由を手に入れた代償として、他者と真に分かり合えない絶対的な孤独を背負う近代人の宿命が描かれています。
「金を見ると、どんな君子でもすぐ悪人になる」
先生が人間嫌いになった原体験です。信頼していた叔父に遺産を騙し取られた経験から、人間は平時には善人であっても、利害が絡むと容易に豹変する醜悪な存在であると悟った絶望が吐露されています。
「私は死ぬ前にたった一人でいいから、他(ひと)を信用して死にたい。あなたはその一人になれますか」
先生が青年「私」に向けた魂の叫びです。人間を信じられず、自分自身すら信じられなくなった男が、死の直前に求めた最後の救済がここに凝縮されています。