なぜ「けふ」が「きょう」に?歴史的仮名遣いのルールと読み方を徹底解説
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なぜそもそも、日本語の文字表記と実際の発音にこれほどのズレが生じてしまったのでしょうか。その背景には、中世歌壇の権威であった藤原定家(ふじわらのていか)と、江戸時代の傑出した国学者である契沖(けいちゅう)による表記の再編劇があります。
平安時代末期から鎌倉時代にかけて発音が大きく崩れ、当時の人々自身も「い・ひ・ゐ」「え・へ・ゑ」「お・ほ・を」の書き分けに激しい混乱をきたしていました。そこで藤原定家は、古典筆写の基準とするために『下官集(げかんしゅう)』において仮名遣いの規範を定めました。これが「定家仮名遣い」です。しかし、定家が拠り所とした基準は当時の発音や一部の文献に基づく便宜的な分類であったため、平安初期本来の語源的・音韻的な実態とは異なる箇所が多く含まれていました。
この歪みを正したのが、江戸時代元禄期の国学者・契沖です。徳川光圀の命を受け『万葉集』の研究に没頭した契沖は、膨大な古代文献を精確に照合。平安初期以前の文献に基づいた本来の表記規範を『和字正濫鈔(わじしょうらんしょう)』で打ち立てました。これが現在の「歴史的仮名遣い」の原型です。
明治以降、日本の公教育や公文書では契沖の学説に基づいた歴史的仮名遣いが正書法として採用されました。しかし、1946年(昭和21年)の内閣告示「現代かなづかい」によって、現代の発音に即した表記へと全面改訂されることになります。私たちが今日学ぶ歴史的仮名遣いは、平安朝の言葉の響きを1000年以上の時を超えて忠実に写し取った「発掘された言語遺産」なのです。