『伊勢物語』梓弓の現代語訳とあらすじ|3年待った女の悲劇と結末の真相
『伊勢物語』梓弓の現代語訳とあらすじ|3年待った女の悲劇と結末の真相を徹底追究! 知っておきたい トピックの裏側を分かりやすく展開します。
第24段には計3首の和歌が登場します。それぞれの歌には平安和歌特有の高度なレトリック(枕詞・掛詞・縁語)が張り巡らされており、登場人物の本音が重層的に隠されています。
1. 男の歌:皮肉と未練が交錯する「あづさゆみ ま弓つき弓…」
【歌】あづさゆみ ま弓つき弓 年を経て わがせしがごと うるはしと思へ
初句から第2句の「あづさゆみ ま弓つき弓」は、弓の材質である「梓(あずさ)」「真弓(檀)」「槻(つき=ケヤキ)」を並べた表現です。これは「弓を引く」の「引く」から「年月を経(へ)る」を導き出すための序詞(じょことば)として機能しています。また、「梓弓」自体が「春(張る)」「引く」「年(射る)」などを導く伝統的な枕詞・縁語の役割も果たしています。
男の真意は、「長年私があなたを深く愛したように、新しい男とも仲睦まじく暮らしなさい」という表面上の祝福に見せかけた、痛烈な皮肉と裏切られた男の強がりです。戸を開けさせず、中に入りもせずに去る姿に、プライドを打ち砕かれた男の激しい怒りが滲み出ています。
2. 女の歌(1首目):必死の弁明と逆上「あづさゆみ 引けば寄り来ぬ…」
【歌】あづさゆみ 引けば寄り来ぬ ものゆゑに なが立ち寄らん 心頼まじ
「あづさゆみ」は「引く」を導く枕詞。「引けば」は「(弓を)引く」と「(男が女の袖を)引く=誘いかける」の掛詞になっています。さらに「寄り来ぬ」と「立ち寄らん」の「寄る」が縁語として響き合っています。
女は「向こうの男が強引に言い寄ってきたから部屋に入れただけで、本気ではない。それなのに、ふらっと立ち寄ってすぐに立ち去ろうとするあなたの冷淡な心を、どうして信じることができましょうか」と訴えています。自分の不貞を棚に上げているようにも見えますが、極限状態における「なぜ3年間も放置したのか」という男への恨みと悲痛な叫びが込められています。
3. 女の歌(2首目・辞世):指の血で刻んだ絶筆「あひ思はで…」
【歌】あひ思はで 離れぬる人を とどめかね わが身は今ぞ 消え果てぬめる
文法上の最重要ポイントは結句の「消え果てぬめる」です。完了の助動詞「ぬ」の連体形+推定の助動詞「める」が接続した形(ぬる+める=ぬめるの撥音便無表記、または直接接続)で、「完全に死んで消え去ってしまうようだ」という意味を表します。
「あひ思はで(お互いに思い合わないで / 私を思ってくれずに)」という言葉には、かつて愛し合ったはずの男に完全に拒絶された絶望と、自らの命を削るようにして書いた凄惨な怨念が凝縮されています。