モンゴル帝国の国旗は存在した?チンギスハンの軍旗トゥグと紋章の真相
モンゴル帝国の国旗は存在した?チンギスハンの軍旗トゥグと紋章の真相の疑問点について、分かりやすい解説を詳しくお届けします。
国旗を持たなかったモンゴル帝国において、国家と軍団を象徴する最高峰の標識となったのが軍旗「トゥグ(Tug / Süld)」です。トゥグとは、槍の穂先の周囲に白馬やヤクの尾毛を束ねて吊るした独特の旗章であり、遊牧民のアニミズム信仰において「ハーンの魂」や「軍神の霊魂(スルド)」が宿る聖遺物として崇められていました。
1206年、オノン川のほとりで開かれたクリルタイ(部族大会議)において、テムジンが「チンギス・ハン」の尊号を得て即位した際、天に向かって打ち立てられたのが「九脚白旗(イェスン・キョルト・ツァガーン・トゥグ)」です。遊牧民族にとって「白」は純潔、平和、繁栄を象徴し、「9」は宇宙の調和を示す最も神聖な吉数でした。九脚白旗は中央の大トゥグを8本の小トゥグが取り囲む荘厳な構造を持ち、平時における国家の平和統治とハーンの至高の権威を誇示する役割を果たしました。
一方、対外遠征や戦時において全軍の士気を鼓舞するために掲げられたのが「四脚黒旗(ハラ・トゥグ)」です。黒馬の尾毛で作られたこの軍旗は、敵陣を震撼させる軍神の荒ぶる魂そのものと見なされました。『モンゴル秘史(元朝秘史)』やペルシャ側の歴史家ラシードゥッディーンが著した『集史』の記述によると、モンゴルの将兵たちは出陣前に黒トゥグへ馬乳酒を捧げて戦勝を祈願し、戦場ではこの旗の動きに従って一糸乱れぬ集団騎兵戦術を展開したと記録されています。