光と記憶を刻むガラス作家・五十嵐桃子の軌跡:キルンキャストの美学と静寂の造形
光と記憶を刻むガラス作家・五十嵐桃子の軌跡:キルンキャストの美学と静寂の造形にまつわる興味深い視点を分かりやすく発信ます。
一般的にガラス工芸といえば、空気を吹き込んで成形する吹きガラスを連想しやすい。しかし五十嵐が傾倒するキルンキャストは、全く異なる時間軸と精密な設計を要求する。
耐火型と窯の中で起こる静かな変容
作業は原型の制作から始まる。ワックスや粘土で綿密に形を作り出し、それを耐火石膏で包み込んで鋳型を成形する。型の中から原型を抜き取った後、カレットと呼ばれるガラスの小片やガラス粉末を充填。最高800度を超える電気炉(キルン)に投入する。
熱によってゆっくりと溶けたガラスは、重力に従って型の隅々まで充填されていく。重要となるのが冷却工程だ。数日から場合によっては数週間という時間をかけて、窯内の温度を微小単位で下げていく。焦りは禁物である。温度変化が急激であれば、内部歪みによってガラスは砕け散る。
表面のテクスチャーと内部気泡が作る「輪郭の揺らぎ」
石膏型から取り出されたガラスは、研磨や酸処理によって表面の質感が調整される。五十嵐の作品に共通するのは、透明でありながらどこか輪郭が曖昧にぼやける独特の風合いだ。
完全な透明体ではなく、半透明の層や内部に閉じ込められた微小な気泡。これらが通過する光を複雑に乱反射させ、作品そのものが内側からぼんやりと発光しているかのような視覚効果を生み出す。素材の密度と光の屈折率を徹底的に計算し尽くした結果である。