東山魁夷の名画に秘められた祈りとは?『道』『緑響く』の真実
東山魁夷の名画に秘められた祈りとは?『道』『緑響く』の真実について押さえておきたい ポイントを分かりやすく解説いたします。
東山魁夷の絵画を前にしたとき、多くの鑑賞者が息をのむのが、吸い込まれるような青や緑の圧倒的な透明感です。美術界で「魁夷ブルー」「東山グリーン」と称されるこの独特な色彩は、どのような技法によって生み出されているのでしょうか。
第一の秘密は、天然岩絵具の丹念な多層積層にあります。日本画の岩絵具は、鉱物を砕いて粉末にした粒子であり、油絵具のように混色してパレット上で新しい色を作ることはできません。魁夷は、極めて粗い粒子から超微細な粒子まで、番号(粒子サイズ)の異なる岩絵具を膠(にかわ)水で溶き、和紙の上に薄く何十回、作品によっては百回近くも塗り重ねました。粒子と粒子の隙間に光が乱反射することで、単一の絵具では到底出せない、奥底から発光するような奥行きと静謐な青が生まれるのです。
第二に、徹底した下地づくりと色彩対比の計算が挙げられます。青や緑の画面の下には、補色に近い黄土色や赤みを帯びた辰砂、あるいは純白の胡粉(ごふん)が緻密に仕込まれています。表面の冷たい青の下からわずかに温かい下地の色が透けることで、冷涼でありながら温もりを感じさせる「生きている風景」が立ち現れます。
第三の要素は、徹底的な現場スケッチ(写生)と抽象化の融合です。魁夷は旅の画家でもありました。日本各地はもとより、北欧、ドイツ、オーストリア、中国へと足を運び、何冊ものスケッチブックを現地で埋め尽くしました。しかし、本画を描く段階になると、電柱や看板はもちろん、余分な木々の枝葉まで徹底して削ぎ落とし、風景の本質的な骨格だけを抽出します。この「具象と抽象の完璧な均衡」こそが、魁夷の絵画に時代や国境を越えた品格を与えている技術的根拠です。